「うー…、まだ7月に入ったばっかなのに、暑いねぇ…」


「今年は梅雨明けが早かったからね。莉菜んとこ、熊谷の近くでしょ?その辺暑そうだよね」


夏は嫌いじゃないけれど、汗はかくし、化粧も崩れちゃうから、そういう意味ではめんどくさい季節。

わたしはついついすっぴんで出かけちゃうんだけど、梨花はいつでもちゃんとしている。


「8月になったらさ、ゆんちゃん誘って海でも行くか」


「えっ!?梨花、日焼けとか嫌いそうだし、そもそもアウトドア的なの好きじゃなさそうだよね?泳いだりしに行くんだー」


「うん。だから、海に行くって言ってるじゃん。泳ぎに行くとは言ってないよ」


なるほど。そーゆーことか。


「莉菜、花火とかしたくない?でさ、三人だけの花火大会はどう?」


「えー?浜辺で花火するの?汚しちゃいそうだし、まずくない?」


常識人の梨花にしては、そんな提案するなんて、珍しいなと思った。


「いやいや、その辺でする訳じゃなくて、別荘にプライベートビーチあるから。あと、日にち決めたら職人さん呼ぶよ。花火するだけじゃなくて、打ち上げ花火も見たいでしょ?」

梨花の発言は、どこまで本気で、どこまで冗談なのかが分からない。


「うんうん、自家製ジェットで迎えに来てね!」

まぁいいか。話を合わせて、相づちを打つ。


「あぁ、ごめん、無理無理!自家製ジェットとか!」


…やっぱり冗談だよね。そんな夢みたいな、ドラマや映画みたいな話、ある訳ないもんね。


「今回行く島は小さいとこだから、滑走路ないし。ヘリで行くからね」


「うっは!あじすか!?」


「あは!莉菜って、現実でもゲームん中みたく、『うっは!』とか『あじすか!』とか言うんだね!」


「あじすか、はわざとだけど、うっは!は、言う言う!みんな大体、話し言葉と一緒なんじゃないかな?」


「そかそか、そうだね。確かにそうかも」

そう言って、あなたは笑う。

その笑顔に、わたしはほっとするんだ。




ゆっくりと、ゆったりと。

流れるていることを忘れてしまうほど、緩やかな時。

わたしも…あなたの心を優しく包めているのかな。

貰うだけじゃ、申し訳ない。かといって、与えるだなんて、そんなおこがましい事は言えないし。



「ありがとね、梨花」



話の流れにそぐわない、唐突な言葉だけれど。

思った言葉は、ついそのまま溢れ出ていった。


「なによ、急に」


迷惑そうな言葉とは裏腹に、あなたの笑顔は優しくて。

夕焼けになる前の、少しだけオレンジに染まった空に比例して。あなたの頬が染まってゆくのを、わたしはそっと、見届ける。



恋ではない、恋に似た、このときめきは。

ずっと消えることがないようにと、そっと心の奥に、優しく閉じ込め続けていくのです。

「ありがとう」の、言葉と共に。